今回は当院でよく謳っている「東洋医学的に」とか「東洋医学に基いた考え方」について、ちょっと深くまで踏み込んだ記事を書いてみたいと思います。
少し難しい話になるので、興味のある所だけで良いので気楽に読んでみて下さい。
※これまで東洋医学に触れて来なかった方向けに、わかりやすいように表現している文章ですので、詳しい方からしたら表現が正しくないと思われるかも知れませんが、ご容赦下さい。
目次
東洋医学の歴史
東洋医学を説明をする上で、どうしても「気の概念」がある前提でお話が進みます。
「気」は目には見えませんので、どうしても「うさんくさい」「怪しい」物に思われる方もいらっしゃると思います。しかし、決してそんな事はありません。ちゃんと歴史のある、理論のあるものなのです。
治療を受ける上で、歴史や理論を理解している必要は一切ございません。
しかし、少しでも興味を持って頂けると普段の生活での養生のヒントや、未病を防ぐヒントになったりします。
まずは東洋医学の歴史について少しだけ触れたいと思います。
東洋医学の定義
「東洋」と一言で言っても広い意味があります。
「東洋医学」も広い意味で考えると少々ややこしくなってしまいます。
アーユルヴェーダ(インド)まで含まれる事もあるようですからね。
当院で謳っている「東洋医学」は下記の一文です。
(※厳密に言うと、中医学との違いもあるのですが、ここでは省略させて頂きます。)
現在日本の伝統医学業界では、古典医学書に基づく薬物療法・漢方医学と、経穴などを鍼や灸で刺激する物理療法・鍼灸医学、両者を合わせて東洋医学と呼んでいる。
東洋医学-wikipedia-
当院で謳う東洋医学は、この日本の伝統鍼灸医学の事を指しているとお考え下さい。
では、「古典医学書に基づく」と言っても、どれくらい昔の古典が元になっているのでしょうか。
最も古い中国医学古典と言われているのが「黄帝内経(こうていだいけい)」というものになります。
黄帝内経(こうていだいけい)
およそ2000年も前に書かれているものと言われています。(※諸説あり)
『黄帝内経』(黄帝内剄、こうていだいけい、こうていだいきょう、こうていないけい)は、現存する中国最古の医学書と呼ばれている。古くは『鍼経』(しんきょう)9巻と『素問』(そもん)9巻があったとされているが、これら9巻本は散逸して現存せず、現在は王冰(おうひょう)の編纂した『素問』と『霊枢』(れいすう)が元になったものが伝えられている。黄帝が岐伯(きはく)を始め幾人かの学者に日常の疑問を問うたところから『素問』と呼ばれ、問答形式で記述されている。『霊枢』は『鍼経』の別名とされ、『素問』が基礎理論とすると、『霊枢』は実践的、技術的に記述されている。
黄帝内経-Wikipedia-
上にも書かれている通り、黄帝内経には、「素問」・「霊枢」があります。
素問・・・生理・衛生・病理などの医学理論の解説に重きが置かれている内容。
霊枢・・・診断・治療法・鍼灸手技などの臨床医学に重きが置かれている内容。
この二つの内容を全て理解出来ていたら凄いのですが、何せものすごい量です。
私も少しずつ読み進めて理解を深めている最中です。
この素問と霊枢以外にも、鍼灸師には避けて通れない「難経(なんぎょう)」という書物もあります。
難経(なんぎょう)
内容は『黄帝内経』に沿っており、これを鍼法に絞って体系化したもので、脈法と脈論が中心である。現存する『黄帝内経』にはない独自の内容もあり、鍼灸術や、日本の漢方の一派・後世派の治療方式、基礎理論にかなり取り入れられている。
難経-Wikipedia-
鍼灸師の為の攻略本という表現をされている先輩もいます。
黄帝内経に書かれている、特に難しいところを問答形式で論説している書物になります。
どの本も、原文はもちろん白文(漢字のみ)なので、色々な先生方が出されている訳本を頼りに勉強しなくてはならないのですが、その先生によっても解釈が微妙に違ったりします。
これが鍼灸の面白いところであり、難しい所ですね・・・。
これ以外にも、東洋医学に関する古典は様々あります。
現代で古典医学書が通用するのか
それにしても「こんな大昔の医学書が、現代の人に当てはまるのか!?」と、疑問にお思いの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
もちろん、全部が全部書かれている通りにはなりません。
しかし、何千年経とうが、人の根本的な部分は変化してないと思います。
ですが、環境の変化や栄養状態の変化はあります。
食べ物は品種改良され、本来酸味の強いものが、甘みの強い物に変化したり、本来の季節でないものが一年中出回っていたりと、昔と違う部分は大いにあります。
栄養状態も昔とは違い「足りてない」方よりも「摂り過ぎている」方が多い傾向がありますね。
ですので、古典に書かれている通りのような体の状態にはなっていない事は多々あります。
お体がどのような状態になってお悩みの症状が出ているのかをしっかりと見極めて、その状態に合った治療をしていく為にも、お悩みの症状を良くお聞きし、脈やお腹、手足の皮膚の状態を確認して、実際に体に現れている変化を確認する必要があります。
そこで大切になってくるのが四診になります。
四診について
大まかにですが、東洋医学の歴史について触れてみました。続いて、陰陽論についてのお話です。
陰陽論
上のマーク、見かけた事があるかも知れません。
これがまさに陰陽を表しています。白い部分が陽を表していて、黒い部分が陰を表しています。
少し具体的にお話していきます。
陰陽(いんよう、拼音: yīnyáng、英: yin – yang)とは、中国の思想に端を発し、森羅万象、宇宙のありとあらゆる事物をさまざまな観点から陰(いん)と陽(よう)の二つのカテゴリに分類する思想。陰と陽とは互いに対立する属性を持った二つの気であり、万物の生成消滅と言った変化はこの二気によって起こるとされる。
陰陽-Wikipedia-
・・・と、これだけでは難しくて何がなんだかわかりませんね。
簡単に言うと、「この世の全てを陰と陽に分類して考える」という事です。
もう少しだけわかりやすいように、陰陽の特徴から説明したいと思います。
陰陽の特徴
陰陽には4つの特徴があります。
物事を考える上で当たり前のように思っている事も含まれていますが、それが大事です。
陰陽論は、特別な事を言っているのではないです。
対立と制約
あらゆる事物を対立・制約しあう二つの側面からとらえること。
例:上と下、外と内、昼と夜など。
相互依存
対立しているということは、相互に依存していることと同義になる。
例:上がなければ下はない、外がなければ内はない、など。
対立と制約、相互依存に関しては二つのカテゴリに分類する上での基本的なルールという風に考えれば良いと思います。
消長平衡
陰陽は不変の状態ではなく、常に不断の運動変化がある。
例:季節(四季の移り変わり)、気温の日内変動など
相互転化
緩やかな変動だけでなく、正反対の方向に転化することもある。(陰極まれば陽となり、陽極まれば陰となる)
例:体が冷え切って風邪を引いてしまい、熱が出るなど
消長平衡、相互転化に関しては常に一定の状態ではなく穏やかに変わる事もあれば、急激に変化する事もあるという事を表していると考えれば良いと思います。
以上の4つが陰陽論の特徴と言われているものです。
こうやってまとめると、日常生活のあらゆる場面に陰陽論はあるわけです。
例えばぽかぽか陽気なんて言いますが、まさにこれは春先の【陽の気】がいっぱいの状態を表している様子です。
でもこれは、【陰の気】がいっぱいの冬の寒い時期があるからこそ実感出来る事です。
そして、春先になったからと言って常にぽかぽか陽気ではありませんよね。
3月や4月は急に寒い日が出てきて、寒暖差によって体調を崩す方も多い時期です。
まさに相互転化ですよね。
陰陽虚実
陰陽論を治療に活かす上で重要なのが、どこに病があるのか(陰陽)という事と、体の状態・病の状態(虚実)はどうなのかという事です。
体の陽の部分であれば、上下で考えれば頭・上半身が陽になりますし、内外で考えれば皮膚表面のようにを考える事も出来ます。
体の陰の部分であれば、上下で考えれば下半身や足先のが陰になりますし、内外で考えれば内蔵だったり骨を考える事が出来ると思います。
お悩みの症状がどこに出ているのかが重要になってくるのがわかりますね。
次は虚実を考えます。
まずは基本的な虚実の考え方から。
力のない、元気のない状態であれば「虚」
充実し、力のある状態であれば「実」
単純に体全体の状態、患者さん自身の状態を考える上ではこれくらいの感じ方で十分な場合がほとんどです。
日常生活を普通に送れていて、基本的には元気な状態であれば「実」と考えて良いと思います。
「虚」と考える体の状態で言えば、大病の後、日常生活を送るのがやっとの状態、といった感じでしょうか。何をするにもやっと、当院に来るのもままならないような状態の場合もあります。
ここに病の状態の虚実も加わって、今の体の状態を考える必要が出てきます。
体のどこに問題があり、どのような状態になっているかを診るわけです。
例えば、日常生活を普通に送れている元気な方が風邪を引いた場合、陽実証になっている事が多いです。
体の表面から「風邪(ふうじゃ)」(外邪の一つ)に冒されて、熱や咳が出ます。外邪に冒されてすぐは、病位は陽にありますし、熱が出ているので病の特徴は実です。
基本的には元気な方なわけですから、この段階でしっかりと休めれば長引く事もなく風邪は自然治癒力によってすぐに治ります。
自然治癒力
しかし、症状だけに目を向け薬だけで対処して体をしっかりと休めずに過ごしていると、時として外邪が取り切れず「熱は下がったけど、体の倦怠感や軽い咳がなかなか治らない。」という訴えに変わります。
病自体の勢いは、虚に変わっているようですが、病そのものは取り切れていません。
虚になっていれば段々良くなっているように感じるかも知れませんが、邪(じゃ)と呼ばれる体にとって悪いものがある事に変わりはありません。
長い間体に邪があるというのは、それだけで元気を消耗するものです。
消耗し続け、やがて体全体も虚の傾向になると、邪が体の深くまで入り込んみ、慢性化します。
「いつまで経っても咳が治らない」というよう状態になる事もあります。
この時に体の状態としては陰実証と呼ばれる段階になっている事もあります。
わかりやすく風邪の症状から話を発展させましたが、あらゆるお悩みに共通する部分です。
その人に合った状態
この陰陽の難しい所は、その基準は人によって違うという事です。
もちろん、風邪症状ではっきりと邪実があるようなケースは、取り除く事が大前提としてあります。
しかし、脈やお腹の状態で確認し、ある程度理想的な脈に導けたとしても、時としてあまり良い反応が出ない時もあります。
これは、その人に合った状態に出来ていなかった事が原因の一つとして考えられます。
こういう事が起きないようにする為に、初めての方には十分に時間をかけてお話をお聞きし、陰陽の偏りはないかを診て、敏感そうであればは少なめにして様子をみないと、過剰に反応が出てしまうケースもあります。
逆に言えば定期的に通って下されば、体の傾向がわかっている為、ちょっとした体のつり合いの変化、気血の変動が分かる為、未然に病にかかるのを防げるようになります。
鍼灸治療の継続を推奨する理由
続いて、五行論についてお話します。
五行論
図で表すと上のような形になります。
陰陽論と同じく大事な理論が五行論です。
五角形が矢印で繋がっていて、その中に更に星型の矢印がありますね。
この矢印の方向もちゃんと意味があります。
では、これをもう少し具体的にお話していきます。
五行の分類
五行思想(ごぎょうしそう)または五行説(ごぎょうせつ)とは、古代中国に端を発する自然哲学の思想。万物は木・火・土・金・水の5種類の元素からなるという説である。また、5種類の元素は「互いに影響を与え合い、その生滅盛衰によって天地万物が変化し、循環する」という考えが根底に存在する。西洋の四大元素説(四元素説)と比較される思想である。
五行思想-Wikipedia-
陰陽論では、2つに分けて考えていますが、五行論では万物を五つの性質に分けて考えます。この五つというのが、図にも描かれている通り、「木・火・土・金・水」になるわけです。
それではもう少し具体的に、まずは「季節」を五行に分類して考えてみましょう。
「木:春」「火:夏」「土:土用」「金:秋」「水:冬」
※ここで言う土用というのは、立夏・立秋・立冬・立春の前のそれぞれ十八日間の事です。
土用の丑の日の事だけを指しているわけではありません。
次は「感情」を五行に分類してみましょう。
「木:怒」「火:喜」「土:思」「金:憂」「水:驚」
続いて「味」を五行で分類してみます。
「木:酸」「火:苦」「土:甘」「金:辛」「水:塩辛い」
最後に、お体を診る上で最も大事な「臓腑」も五行に分けます。
「木:肝・胆」「火:心・小腸(心包・三焦)」「土:脾・胃」「金:肺・大腸」「水:腎・膀胱」
※東洋医学でいう所の臓(心、肝、腎など)は、一般的に考えられている心臓、肝臓、腎臓などとは違った見方をします。
他にも「方角」「時間」「色」「臭い」など、様々なものが五行に分類出来ます。
そして、「お悩みの症状」も病症の弁別として、五行に分類して考える事が出来るのです。
ではこのように分類して、どういった意味があるのでしょう。
五行の分類 例1
「毎年春になると体調を崩しやすく、普段からイライラしたり怒りっぽい性格をしている。酸っぱい味が好みでよく食べる。」
この方の場合、肝の変動が起こりやすい体質ではないかと考えます。
これに加えて、前回の陰陽論と併せて、肝が虚の状態なのか、実の状態なのかまで診ていく必要があります。
しかし、実際はこのように綺麗に肝の変動が考えられるような方は少ないです。
五行の分類 例2
「毎年春に体調を崩しやすく、普段から思い悩みがちで、甘い物をついつい食べてしまいがちで、酸っぱい味は苦手ある。」
この方は肝と脾の変動が考えられます。
これではどちらを治療すれば良いのか迷ってしまいますね。
そこで五行の特徴である相生関係と相剋関係が出てきます。
五つに分けるだけでなく、それぞれが影響し合っているという風に考えます。
相生関係
母子関係と言うとイメージしやすいかも知れません。
木から火が生まれ、火から土が生まれ、土から金が生まれ、金から水が生まれ、水から木が生まれる
このように、隣あってる性質は母と子の関係になっています。
上の図で言う所の五角形になっている外側の線が相生関係を表しています。
例1の方で考えるならば、仮に肝(木)が虚の状態だとします。
そうすると肝だけを補うのではなく、肝の母に当たる腎(水)も一緒に補うのです。
これは難経の六十九難に書かれている、
虚すれば其の母を補い、実すれば其の子を瀉せ
という経絡治療を行う上で欠かせない大原則に基づいた考え方になります。
相剋関係
こちらは夫婦関係という言い方をします。
木は土を剋し、土は水を剋し、水は火を剋し、火は金を剋し、金は木を剋す
お互いが調整、制御しあう関係になっています。
図で言う所の、中側の星型の線になっている部分が相剋関係を表しています。
例2の方で考えるならば、仮に肝(木)が虚で、脾(土)が実の状態だとします。
本来であれば、肝(木)が脾(土)の力を制御する事でバランスが保たれていたものが、肝(木)が何らかの原因によって虚の状態になってしまい、脾(土)を制御出来なくなってしまい、釣り合いが崩れてしまっていると考えられます。
このような場合でも、まずは虚を補うので、肝を補う事から治療は始まります。
補った事で、実の状態であった脾はどのような変化をしたか。
単純にバランスが崩れていただけのものであれば、肝を補った段階で脾の実がなくなっている事もあるのです。
まとめ
難しいお話が続きました。
出来るだけ一般の方が興味をもって頂けるように、私個人の主観や考えている事も含まれているので、詳しい方が見たら「おや?」と思う部分もあるかも知れませんが、ご容赦下さい。
もちろん当院での治療を受ける上で、この内容を理解しておく必要はございません。
ただ、東洋医学そのものに興味をお持ちなのであれば、何となくでも構いませんので目を通して頂けると実際に治療にいらした際に説明がしやすいですし、イメージもしやすいかと思います。
「そういえば…」とか「だから毎年この季節に…」とか、意外な気づきも得られるかも知れません。
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